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記憶の底に隠れる前に

気になる言葉から日常話まで
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移ろいながら道標となる自然の色たち

作品情報:「木の花染め」 (文庫本換算約4頁)
       「落花」 (文庫本換算約17頁)

著者:にっけさま

サイト:La Historia(ラ・イストリア) 
http://members2.jcom.home.ne.jp/leaf/

作品の場所(2007/7/23現在):創作小説 その他のお話

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「木の花染め」は染色家・志光が有名な作品を仕上げた直後に出会った桜のお話です。
息子への言葉と妻からの言葉から、彼がどれだけ桜染めに人生を注いでいるかが伝わってきます。
桜染めの糸を解く描写が、朝露に濡れながら咲く桜の花のようで、染めへの愛を感じます。
そして、染物を届けに行く山里で出会った夜桜は鮮やかに「咲う」。
咲う(わらう)という言葉をはじめて知りました。とても印象的なシーンです。
初春らしい山野草のような苦さの残る色が思い浮かぶ作品でした。

「落花」は駆け出しの染織家・ゆきが、父親が倒れた知らせを受けて田舎に帰るところから始まるお話です。
専門的な織りの作業工程は「あとがき」でイラストにしてあるので、とても分りやすく読み進めることができました。
「染め」だけでなく、「織り」に触れたことで、糸の表情が変わっていくように話が進んでいくのが素敵です。
ゆきの葛藤とそれに手を差しのべる水上の存在。
織り機に張られた糸が示す人生の形。
ゆきのこれからの人生を思わせる清くて潔い色が思い浮かぶ作品でした。

ふたつの作品は姉妹作です。
「主人公も時代も違うのにどうしてだろう?」と思いながら、読みすすめていくと謎が解けました。
材料は「桜染」という共通のものなのです。だから、根っこのところで繋がっている。
けれど、発色と色どめに使う媒染剤(ばいせんざい)が違うのか、もともと桜が持っている性質が違うのか、同じ材料を使っているのに違う色が浮かんでいます。
それが人工染料では有り得ない、自然の色の美しさに繋がっているように思えます。
作品を並べてみると、光や風に踊ってさらに色の違いが現れてくるような、新たな発見がありました。
哀しさも苦しさも喜びも潔さもすべては移ろう色の中にあるのかもしれない。
ぜひ、ふたつセットで読まれることをおすすめします。

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冒険以上の日常

作品情報:「WEAK WALKER」(原稿用紙換算 40枚)

著者:須賀 琉(すが りゅう)さま

サイト:ひなたびより
http://korobine.nomaki.jp/

作品の場所(2007/6/28現在):ss ◇掌編・短編 小説◇

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社団法人G's Lが主催するJOURNEY-Fというゲームに参加する青年の話です。
ただしこのゲーム、ひたすら進むことが条件のはっきりしたゴールの見えないゲームだったのです。

移動手段は「歩く」か「走る」。
主人公は歩き、友達の槙本くんは走ります。
そこに生き方のズレが出てきて、同じ方向を向いているのに違う結果が生まれます。

そもそも、歩くと足がポンプの働きをして、血流が良くなります。
すると身体にいいし頭もすっきりする。
自分の足で進んだことに対する達成感は、徒歩旅が一番得られるのではないでしょうか。
遠くに行ったというより、自分でここまで来たというのは、かけがえのない体験だと思います。

ゲームでありながら、自分と向き合いながら続いていく旅。
切り離した筈の日常がふと陽炎のように現れては消えていくのが印象的です。

画面に映るような冒険はないかもしれない。だけど日常は冒険以上に面白い。

何処までも透明な暗闇

作品情報:「幾何模様の赤い薔薇」(原稿用紙換算 8枚)

著者:土塀賦之(どべいふゆき)さま

サイト:爆裂ダッシュ
http://spectrum.sakura.ne.jp/bakuda/index.html

作品の場所(2007/5/2現在):Story その他

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回転のキャサリンと無限輪のルーシー。
赤と黒のコントラストが最初は際立っているのですが、読み続けるにつれて別々の絵だと思っていたものが実は一枚の絵だった時のような感覚に陥ります。
二人を取り巻く、何処までも透明な暗闇。詩的に綴られていて、吸い込まれそうになりました。

永遠という難しいテーマの筈なのに、二人の軽やかな台詞回しで描かれています。
流れるように読み進められて、読後は爽やかに同意することが出来ました。

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リストの下の方にひっそりとあるのが、勿体無い。
そんな個人的意見をお伝えしたところ、
「永遠とか永久とかを軽々しくテーマにするのは嫌がる人もいるだろうし読み手さんには敬遠されるタイプの話じゃないかなと思っていたので」という意外なお答えをいただきました。

敬遠どころかピンポイントで「大好きです」と言える作品です。

夜の海原に浮かぶ灯火

作品情報:「ツキモノ」(原稿用紙換算 64枚 DL版あり)

著者:渡来周発(わたらい しゅうは)さま

サイト:森の中の小説喫茶
http://moricafe.gozaru.jp/index.html

作品の場所(2007/4/17現在):しょうせつ 完結済みの作品

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時間を気にしない旅人アルフについてくる一人の少女、彼女は幽霊だった。

第一印象は「ちょっと変わったファンタジー」でした。
夜風が聞こえるような静かな始まりかたに、そう思ったのかもしれません。
ファンタジー・冒険とくれば賑やかな始まりかたをするという固定観念を、いい意味で破ってくれました。

アルフは少女に「セリム」という名前をつけます。
共に旅をしていきながら、成長していくセリム。
そっけないけれど優しいアルフが、不安げなセリムを支えていくようすが微笑ましいです。
洞窟から出た二人が見る鮮やかな風景が、赤い色の様々な表現で表されていて、世界の鮮やかさを一層際立たせています。
寄せては返す波の合間に、灯火が浮かんでいるような印象をうけました。

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この度、作品を紹介させて頂きたいとお伺いしたところ、暖かいお返事と改稿を予定していたとの情報を頂きました。
思いがけない朗報でした。
今も連載作品を執筆中の周発さまが、「ツキモノ」をどのような作品に展開されるのか。
さらに楽しみが増えました。

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(追記)
4/18 改稿されました。
セリムを取り巻く環境がさらに詳しく、優しく綴られます。
彼女の亡くなった理由が切なく描かれていて、宝石のような透明度を感じました。

「風の書」について

あれ? ここになかったっけ?

一度読んだ作品をもう一度読みたくなり、それが何処にも見当たらないと哀しくなります。
紙ベースの作品ですらそうなのに、Webともなると先月読んだ作品を探し出すのは困難です。
ブックマークにも限界がありますし……。

というわけで風の様に消えてしまう(見つけられないだけですが)素敵なお話を、「風の便り」ならぬ「風の書」と名づけて少しでもご紹介できたらいいなと考えています。

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