記憶の底に隠れる前に
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BUTAPENN様主催のペンギンフェスタ2007がとうとう10000ヒットを記録しました!
おめでとうございますの気持ちを込めて、環境問題っぽいショートショートを書いてみました。
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日が昇るところまで
今年の夏も暑いねという言葉を繰り返して、何十年たっただろう。
とうとう、二学期の始業式は十月一日に延期になった。
暑すぎる学校には通うことすら難しい。
小学校低学年の息子の歩くスピードでは通学途中に熱中症になってしまう。
しかも、夏場は異常気象が続いているので、この決定は遅すぎたくらいだと思う。
夏休みが二ヶ月あることだし、子供と私は旦那の実家に避難することになった。
一日に何度も竜巻が起こる都市より、過ごしやすいとすすめられたからだった。
「パパは行かないの?」
「パパはお仕事なのよ」
同じ会話を何度も繰り返し、ようやく納得させて、電車に乗り込んだ。
最初の一週間は段々畑に囲まれた生活に戸惑っていたけれど、あっという間に馴染み、今日も遊び疲れて眠ってしまった。
攻撃的な日差しのせいで、長袖しか着られなかった去年までと違い、半袖で走り回っている。
おかげで今となっては懐かしい日焼けを見ることが出来た。
私は息子の汗ばんだ額にくっついた前髪を上げながら微笑む。
まだ薄暗い早朝、布団の中に息子の姿がなかった。
木の扉が少し開いている。外に出てるんだ。私は慌てて後を追いかける。
家から少し離れた高台に立ち、遠くを見ている息子を見つけたのは、日が昇り始めたころだった。
眩しくて目をそらす私と違って、息子は真っ直ぐその方向を見ている。
後ろに立っている私に気づくと、太陽を指差しながらはっきりと言う。
「あっちにパパがいるんだね」
「そうよ」
東は日が昇る方向。そしてパパがいる方向。子供ながらにちゃんと理解している。
もしかしたら、守ってくれていた地球を破壊し、太陽を凶器に変えた大人の方が何も分かってないのかもしれない。
「パーパー! おはよーう!」
お腹いっぱい息を吸い込むと、日が昇るところまで届くように、彼は大きな声で叫んだ。
「聞こえたかな?」
目に浮かんだ涙のせいで、ぼやける太陽を見ながら私も叫ぶ。声は届かなくても気持ちは届くことを伝えたかった。
「パパー、いってらっしゃーい!」
それを見た息子は楽しそうに笑いながら、朝日に向かって何度も話しかける。
昨日は誰と遊んだか、今日は何をする予定なのか。そして、帰る日をどんなに楽しみにしているか。
それは、家族一緒に暮らせるその日まで、息子の朝の日課になった。